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ぷろろーぐ 早春

IIJ.news Vol.193 April 2026

株式会社インターネットイニシアティブ
代表取締役 会長執行役員 鈴木幸一

子供の頃、沈丁花の香りが、路地に面した裏木戸のあたりに漂い始めると、なんとも言えない淡い感情にとらわれていた。子供の心を支配していた感情がどんなものだったのか、わからなくなってしまったのだが、小さなことにも、感情の起伏が大きく揺れていたのだろう。ひねもす本を読むか、ぼんやりしているばかりで、登校する気が失せてしまっていた高校時代でも、沈丁花の香りが漂い始めると、怠惰な日々に失っていた感情が柔らかに鼓動を始めて、なんとか人並の生活を取り戻そうとする意志につながったようだ。突然、大学を受験する気になって、その後、辛うじて大学を卒業し、就職をして、まともな社会人に見えるようになれたのも、沈丁花の香りのおかげである。今でも、早春の冷たい風に触れる季節になると、少しばかり気持ちが騒ぐような気もするのだが、年齢を重ねすぎた今となっては、その感動も薄くなってしまった。当たり前のことだが、将来への選択肢が消えてしまうと、あらゆる感性が鈍くなって、沈丁花の早春の香りが胸を打つこともなくなってしまうようだ。

春を前に、毎年のことだが、年度決算から事業計画、人事に至るまで、次々と打ち合わせが続き、経営に携わる身にとっては忙しいはずなのだが、何よりも時間がなくなってしまう理由は、今年で22回目を迎える「東京・春・音楽祭」のオープニングが迫ってくるためで、何足もの草鞋を履いている気分になる。音楽祭は3月13日に始まり、公演数は80を数える。海外からも著名な演奏家がたくさん集まるのだが、円安と日本への人気で、多くの演奏家は家族を連れてくる。

クラシックの演奏会に足を運ぶ日本の聴衆の音楽を聴く姿勢、その集中度(コンセントレーション)に対して、海外の演奏家はいつも絶賛する。一方、ロシアのウクライナ侵攻により、欧州から日本へのフライトは、より時間がかかるようになってしまい、演奏家は体力の消耗を嘆いている。それでも、毎年、音楽祭にはたくさんの素晴らしい演奏家が参加してくれる。音楽祭は「続けること、それが最も大切なのだ」というリッカルド・ムーティさんの言葉を守っていることで、なんとか世界的な音楽祭の1つになることができた。

ここまで来た音楽祭だが、悩ましい状況が迫っている。音楽祭の核となってきたホールである「東京文化会館」が、今年の5月から修復工事にかかるため、3年ほど利用できなくなる。代替となるホールも、その多くが改修になるようで、流浪の音楽祭になってしまうと言われるのだが、「なによりも続けること」という言葉を守り続けるのが、私の決意なのである。「創業時のIIJに比べると、どうってことないよ」と、話すのだが。


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